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春は頭がおかしい、いや沸いてる奴が出てくるって言うけど本当なんだな。

「先輩好きです、付き合ってください」

「うざい、きもい、失せろ」

俺は頭の中で冷静にそう思考を巡らせながら目の前で頬を染めてキラキラとした瞳で告白してくる美少年にそう返した。

しかし…。

「そうか、先輩照れてるんですね?じゃ、別の場所に移動しましょう」

誰が照れてるって?たしかに校門で男が男に告られてりゃ注目の的だよな。

だがな、俺は照れてもいなけりゃお前なんかお断りだって言ってんだよ!!

そんなこんなで俺はそいつに背を向けて歩き始めた。

「先輩どこ行くんですか?あっ、制服デートですね!!嬉しいなv」

「誰がんなのするかっ。俺は帰るんだよ!!」

「え〜、付き合い始めて初デートが先輩の家だなんて…僕恥ずかしいな」

「………」

よくもまぁ、べらべらとそんなことが言えるな。

「お前な、ふざけんのもいい加減にしろよ」

俺が立ち止り、振り返って言えばそいつはにへらと笑った。

「いや〜、ふざけてなんかないよ。オニイチャンv」

そう、こいつは昨日出来た義理の弟なのだ。

俺の母親が再婚したい人がいるんだけどと言いだし、俺は特に文句もなくOKサインを出した。

そしたらその人も子供がいて今中学三年だと言うじゃないか。

一人っ子だった俺が弟が出来ると聞き、ちょっとばかり期待していれば現れたのはこいつ。

背は低く、見目は可愛くて良かったんだが中身がダメだ。

何処の世界に兄に迫る弟がいる!!

俺が盛大なため息をつくと、オトウトはにこにこ笑って俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

「さっ、帰ろっかオニイチャンv」

「…はぁ」

再びため息をつき、オトウトに腕を引っ張られて俺は歩く。

隣で鼻唄を歌いながら歩くオトウトは、黙っていれば可愛いんだがなぁ、とふわふわ揺れる癖っ毛の茶髪を見ながら俺は思った。

そこでふと気付いた。

中学の下校時刻って高校より遅いんじゃないのか?

「お前さぼったな」

俺の言葉にきょとん、とするがオトウトはてへっと笑って誤魔化した。

「だってオニイチャンに早く会いたかったんだもんv」

「馬鹿か」

口ではそう言ったものの俺は、中身はともかく可愛い弟になつかれて悪い気はしなかった。

「見てみて、あの人達兄弟かなぁ?」

「え?どれ?あら、可愛い弟さん。お兄さんも格好良くて羨ましいわぁ」

「仲良さそうねぇ。うちの子なんてこの間…」

すれ違った主婦三人組が俺達を指して会話をするのが背後で聞こえる。

そうか、こんなんでも兄弟に見えるのか…。

俺はちょっぴり嬉しくて、ちらりと腕を絡める相手を見た。

しかし、相手は俺と違い不満顔で頬を膨らませていた。

「気に入らない」

「何が?」

頬を膨らませて怒るなんてまだまだ子供だな、と俺が思っているとオトウトは唇を尖らせて言った。

「だって兄弟だって言われた」

「別にいいだろ。本当の事なんだし」

家に着き、鞄から鍵を取り出して玄関を開ける。

「ただいま」

誰も居ないと分かっているが俺は毎日こうして帰宅の途を告げる。

靴を脱いで上がろうとしたら、俺の腕を掴んでいたオトウトが後ろから引っ張る。

それに、片足を上げていた俺は踏ん張れずに後方に傾いた。

「危なっ…」

次に来るだろう衝撃を思って俺は目を瞑る。

が、激突したのは玄関のコンクリではなく、扉だった。

「痛っ…何すんだよ!?」

強かにぶつけた後頭部に手をやり俺はオトウト睨みつけた。

しかし、オトウトはうつ向いたままで何も言わない。

「おいっ、何とか…」

ぱっと顔を上げたと思ったら今度は俺の胸ぐらを掴んで下に引っ張り、唇に温かいものが押し当てられる。

「んっ!!」

驚きに見開かれた俺の瞳に端正なオトウトの顔がうつる。

押し当てられたそれがオトウトの唇だと気付いた俺は、胸ぐらを掴んでいるオトウトの手を無理矢理外すとオトウトを突き飛ばした。

「…っはぁ…何、しやがる」

突き飛ばされたオトウトは玄関にしゃがみこみ、瞳に涙を溜め、俺を見上げて口を開く。

「だって…だって、兄弟にしか見えないって言うから。オレ…」

うぅ〜、と涙を溢し泣き始めたオトウトに俺は先程のオトウトの所業も忘れて慌てた。


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